片恋スクランブル


御園生さんには、エレベーター前で追い付くことができた。

私が来たことに気付いたみたいだけど、彼は前を見たまま一言も喋らなかった。

聞きたい。

八木さんを殴った理由を。

でも、声をかける雰囲気じゃない。

怒ってるんだよね?なにかに。

私の知ってる御園生さんは、理由もなく人を殴る人じゃない。

たった少しの時間しか知らないけど……。

強引で、短気で、俺様だけど。

友達思いで、面倒見がよくて、優しい人。

だから、八木さんを殴って、しかも御園生さん自身まで辛そうにしている彼を私は放っておけなかった。

エレベーターに入る御園生さんについて入ろうとした私を、御園生さんの手が止めた。



「八木が気になるんだろう?……戻れ。アイツのところに」

トン、と肩を押された。

二、三歩後退した私に、御園生さんが悲しげに笑った。

そして扉が閉まる。

咄嗟にエレベーターのボタンを押していた。

カチカチと何度か押したボタンは、信号をちゃんと受け取り、その扉を開けてくれた。

後ろの壁にもたれる御園生さんの驚いた表情が見える。

私はエレベーターに乗り込み、御園生さんの目の前に立った。

「舞夏!?」

「……八木さんは大丈夫だって、笑顔で言ってくれました!大丈夫じゃないのは御園生さんの方でしょう!?」

私の剣幕にたじろぎ、視線をそらした御園生さん。

私は彼に背を向けて1階のボタンを押した。

エレベーターが動く音だけが、やたら大きく聞こえた。

なんかちょっとムカついて怒鳴ってしまったけど、このあとどうしよう。

自分が御園生さんに対してこんな風に怒鳴れるなんて思わなかった。

なにも言わなかったけど、怒ってるのかな……。

後ろが気になるけど振り向く事が出来なかった。

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