デキる女を脱ぎ捨てさせて
 あまりの価値観の違いに思わず体がよろめいた。
 その体を目を丸くした倉林支社長に支えられた。

「ご、ごめんなさい。」

「いや、役得?」

 笑う倉林支社長が憎らしい。

 慌てて姿勢を正しても彼から香る大人の男性の香りが鼻をついて離れない。

 ヤダ……最近は一緒に居過ぎて匂いに慣れたのか気づかなかったのに。

「なんだか嫌味ですね。」

「何がだい?」

 とにかく平静を取り戻したくてわざとからかうようなことを口にした。

「パッと見た感じ細身なので、もやしっ子なのかと。」

 つかまった腕は思ったよりも筋肉質で力強さを感じた。
 男らしい彼の腕にドキドキしたとは言えない。

「もやしっ子かぁ。
 久々に聞いたワードだな。
 期待に添えなくてごめんね。」

「いえ、勝手なイメージを持っててすみませんでした。」

「なんなら脱いで見せようか?」

 悪戯っぽい顔を向けられて表面上は呆れた顔を向ける。
 その顔の下で心臓はこれでもかとバクバク音を立てているのだけど。

「……セクハラですけど?」

「ハハッ。容赦ないな。」

 もう!何を言っても冷静にはさせてくれないわけ?

 彼にとっては軽い冗談なのに彼の言葉に、行動に、翻弄されっぱなしだ。
 動揺しているのを彼に見せないようにするだけで精一杯で。

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