デキる女を脱ぎ捨てさせて
「今日、この後食事に付き合ってもらえないかな?
 私の行きつけを予約したんだ。」

 ぼんやりと過ごした私はいつの間にか倉林支社長と二人きりだった。

 つい数日前まで恥ずかしくてどう接していいのか分からなくて。
 ずっと避けるような態度を取って、ここ何日かやっと普通に話せるようになった。

 だからこそ、普通に誘ってくれたのだと理解はできる。
 彼にとっては残業後の食事の誘いは今や通常のことなのだから。

 けれど私にしてみれば、微笑む倉林支社長が急に白々しく思えた。
 さっきはこちらを見てもくれなかったくせに。

 あの夜の甘い囁きも言葉通りで欲しいのは体だけ。

 結婚願望がないというのはよく考えれば分かることだった。
 それ自体が牽制だったんだ。

 だって倉林支社長には婚約者がいる。
 結婚願望がないというのは恋人にはなれないって意味だったんだよ。
 大人の世界は分からない。難し過ぎるよ。

< 119 / 214 >

この作品をシェア

pagetop