デキる女を脱ぎ捨てさせて
 本社に呼ばれた倉林支社長に同行して二度目の出張に来ていた。

 なんとなく本社で彼は歓迎されていない雰囲気を肌で感じて心はどうにも晴れなかった。

 休憩時間にトイレへ向かうと清掃中の立て看板がしてあった。
 掃除をしているおばちゃんが顔を出して謝られた。

「ごめんね。清掃中でね。
 もう一階上か下にいってくれない?」

 掃除のおばちゃんに会釈をして階段を上がった。
 今は下がるより上がりたい気分だった。

 個室に入ってホッと息をついた。
 倉林支社長は本社に来るたびに毎回こんな思いをしてるのかなと思うと心苦しかった。

 私の思い過ごしならいいのだけれど。

 そんな思いが根底から覆される言葉を聞くことになった。
 いや……覆されるどころか、想像の遥か上を行くことになるのだけれど。

 それは後から入ってきた人達の話し声が聞こえてきたせいだった。

「どうして倉林でもこうも違うんだろうね。」

 ……倉林?

 なんとなく個室から出る機会を失って聞き耳を立てる形になってしまった。

「本当よね。紗智もよく我慢してるね。
 弟は優秀でハズレの兄なのに。」

 ハズレの兄って……。

 もしかして倉林支社長のこと?
 でもそんなはず……。

 そう思うのに、そう思いたいのに、本社での彼への対応の端々に感じていた違和感。
 それを思うと……。

 そして決定的な言葉が耳に届いた。

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