デキる女を脱ぎ捨てさせて
 こっちはこの前の不意打ちであんなことになって、今回は匂わすだけ匂わされて倉林支社長はいつもと変わらない態度だし。

 今から仕事の打ち合わせをすると言い出しても驚かないくらいの態度……。

 ううん。違う。
 雰囲気はすごく甘い。
 眼差しも優しくてこんな顔、仕事では見せない。

 でもだからって、どう受け取っていいのか分からない。
 頭は混乱して、けれど彼に全てをさらけ出して甘えてしまいたいって気持ちも顔を出す。

 状況が分からないなりに彼のマンションまで来たのは、今回は彼とそういうことになってもいいっていう覚悟はさすがにあった。

 例え、彼と私の想いに相違があったとしてももう彼への気持ちを誤魔化せずにいた。

「早退……したのに。」

「したのに?」

「意地悪です。」

 思わず漏れた不満に彼はクスリと笑う。

「あぁ。ごめん。
 花音は焦らされるのが好きみたいだったから、そういう男がいいのかと思って。」

 手を取られ手にキスをされた。

 そんなことでさえも動揺するのに倉林支社長は至って普通の態度で悔しい。
 だから自分の気持ちは胸の奥にしまいこんで、冷静な態度でいられるように務めた。

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