デキる女を脱ぎ捨てさせて
　店の奥へ行っていた店主のおじさんが再び顔を出して、訳あり風に言った。

「倉さん。もう来てるよ。奥で待ってる。」

「はい。ありがとうございます。」

　何が？誰が？

　何やら不穏な空気を感じて忘れていた緊張がまた漂った気がした。
　案内された座敷へと崇仁さんの後へ続いて歩を進めた。

　座敷の引き戸を開けるとそこにいたのは、思いもよらない人だった。
　私の母だ。

　どういうこと！？
　私の母親とも私の知らないうちに知り合いになっていたということ？

　驚く私の横で崇仁さんは母に頭を下げた。

「初めまして。倉林崇仁です。
　花音さんとお付き合いさせていただいています。」

　私の想像とは違った挨拶に拍子抜けしつつ、お付き合いという単語に心が跳ねた。
　母に宣言してくれるくらい真剣な気持ちなのだと思うとじわじわと湧いてくる幸せを噛み締めた。

　けれど母を見ると母は厳しい表情でニコリともしなかった。

　知らないうちに母とまで打ち解けていたのかと驚いたけれどそうではないみたいだ。

　それはそうか。
　母も他の地元の人たちと同じようにフォレストを嫌っていた中の一人だ。

　彼と関わっていない人たちにしてみれば未だにフォレストを嫌っていてもおかしくない。

　これが現実なのだと見せつけられた気がして、彼が地元に受け入れられてきていると浮かれていた心はこれでもかと沈んだ。

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