デキる女を脱ぎ捨てさせて
 引き戸の外から「失礼するよ」と声がかけられて話は中断された。
 どこまで話を聞いていたのか、お茶を運びに来たおじさんが口を挟んだ。

「もう許してやったら。」

「それは……。」

 狭い田舎だ。
 店主のおじさんと母もよく顔を知る仲だった。

「佳子さんも本当は恭子さんのこと気にしてるんじゃよ。
 仲間内で飲みに来てても恭子さんのことをよく話しちょる。」

 バツが悪そうに黙ってしまった母の前にお茶を置くと私たちにもお茶を出してくれて、おじさんは座敷を後にした。
 少しの沈黙の後に崇仁さんが口を開いた。

「母は佳子さんのことをよく話してくれました。
 つらい時に支えてくれて、だからあの田舎が好きだって。」

「そんなこと……。
 だってあんなにつらく当たって…。」

 顔を歪めた母に崇仁さんは首を横に振った。

「母は言っていました。
 佳子ちゃんは私のために悪役を買って出てくれる優しい子なの。
 佳子ちゃんに言われて私は倉林に戻れたのよ。って。」

「違う……そんなんじゃ……。」

 言葉を詰まらせた母の頬に涙が伝う。
 それを隠すように手で覆ってハンカチで拭っている。

 そんな母に崇仁さんは穏やかな声で続けた。

「母も来たがっています。
 喧嘩別れしてしまったことを気に病んでいて。
 また会いに来てもいいでしょうか。」

 掠れた声で母は応えた。

「私に許可を得なくても。
 恭子の故郷でもあるんだから。」

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