デキる女を脱ぎ捨てさせて
「話しかけますよ〜。いいですか〜。」

 控えめな声が笑いを誘う。

「ありがとうごさいます。
 今日は驚かずに済みました。」

 仰々しく頭を下げると彼は自身の考えを貫いた言葉を発した。

「残業代が出ないのは変わりないんだよ?」

「気にしてないです。
 零細企業ではサービス残業は当たり前だったので。
 大きい声では言えないですけど。」

 手を口元に添えてわざと声を落とした。

 議事録をまとめるのにこれほど時間が掛かることの方が私にとってはショックだった。

「大丈夫なのか。
 その……プライペートの時間は。」

 お昼休みの会話、聞こえていたんだ。
 たどたどしい彼の口調は盗み聞きしていたバツの悪さなのか、なんなのか。

「大丈夫です。
 倉林支社長こそコンプライアンス大丈夫でしょうか。」

 盗み聞きの仕返しとばかり意地悪な態度で丁重に指摘した。

「何か問題のある発言をしたかな。」

「軽くセクハラですけど?」

「!!!
 それはすまなかった。
 以後、気をつけるよ。」

 頭をかいて本当に申し訳なさそうにする彼に頬が緩んでしまう。

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