デキる女を脱ぎ捨てさせて
 鍵を開け、扉を開放した。
 冷房を切った職場は蒸し暑さが壁から這ってくるようだった。

 背後から倉林支社長の足音がして振り返る。

「もう蒸し暑くなってるな。
 パソコンがやられるから帰る時に冷房は切らずに帰ってくれて構わない。」

 構わないというか。
 それは切らずに帰るのが正解ってことだ。

「すみませんでした。」

「何がだい?」

「……いえ。」

 こういうところは優しいというか、なんというか……。

 彼は両手に袋を持って立っていた。

 今日も残業していると考えて、どこかで買って来てくれたんだ。

 そう思うとなんだか嬉しい。
 逃げようとしていたことが急に申し訳なくも感じた。

 そこは知らなかったんだし、知ってて待っているのも図々しい気がして、これが正解としておこうと思い直した。

 いや、出来ることなら猫のくだりはバッサリ記憶から抹消したいけど。

「私の行きつけというところかな。
 守衛室の冷蔵庫に入れさせてもらっておいたんだ。」

 そう言われ、今度は恥ずかしくなった。

「次は私の行きつけにしよう」と言われ、お店に行くとばかり思っていたから。

 そうではなかった。

 しかもその言葉に浮かれていた自分にも気づかされた。

 彼が連れて行ってくれるところはどれほど素敵なお店だろうって夢見心地に思っていた。

 私なんて簡単だ。
 彼が本気を出したら赤子の手をひねるようなものだろう。

 本気を……出される心配はないから安心この上ないのだけれど。

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