デキる女を脱ぎ捨てさせて
 次の日にテプラで『切らないで!夏季エアコン常時稼働』と作って操作ボタンの見やすい位置に貼り付けた。

 満足気に眺めているとちょうど通りかかった倉林支社長に声をかけられた。

「分かりやすくて助かるよ。
 ありがとう。」

 なんて百点満点の声かけ。
 しかも欲目で見れば、私が何かしてるからわざわざ近くを通ったんじゃないかな?

 彼のことだ。
 昨日、エアコンのことを指摘したことを気にしていてもおかしくない。

 昼間でも色気ある低音の声が耳に残る。
 髪を耳にかけるフリをして、その耳にそっと触れた。

 遠ざかっていく彼の背中はスマートでスッと伸びた背筋が男らしさと気品を漂わせていた。
 無意識のうちに見送っていて見惚れそうになる自分を心の中で叱りつける。

 目の保養くらいにしておきなさい。
 分不相応だって分かってるでしょ?

 気を引き締め直して自席に戻った。
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