デキる女を脱ぎ捨てさせて
「少し夕食には早いが……。
 私の行きつけに行ってもいいかな?」

 車に乗った彼はホッと息をついたのが分かった。
 倉林支社長も本社での仕事は気を張っているようだ。

「はい。光栄です。
 行きつけどんなところですか?」

 昔馴染みのところに行って彼が心休まるのなら今はそうしてあげたかった。

「実は先ほど予約もしたから断られると困ったんだけどね。」

 そう笑った彼はいつもの彼で先回りの気遣いに手のひらで踊らされてる気分になりつつも私の知っている彼らしい態度に少しだけ安堵した。

 彼はゆっくりと車を発進させて帰る道とは違う方向へ車を走らせ始めた。

「どんなところね……。
 それが行ったことが無いんだ。」

「それって行きつけって言わないですよね?」

「俺の親友がオーナーでね。」

 彼の言葉に引っかかりを覚えて聞き直した。

「……俺?」

「あぁ、悪い。
 どうも親友を思い浮かべると素の自分が出てしまって。
 普段は俺なんだ。」

 意外だった。
 プライベートも上品で気品溢れる感じかと勝手に思っていたのに。

「親友の前で私というのもなんだから、このままでいいかな?」

「はい。構いません。」

「そ、ありがとう。」

 俺と口にする倉林支社長はいつもよりどこかフランクに感じた。
 彼にも普通の青年らしい一面があるのだと今さらながらに意外な側面を発見した気分になった。

 最初の頃は意外だらけで驚いていたなぁと思うと懐かしい気持ちにさえなった。

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