デキる女を脱ぎ捨てさせて
 席に案内されて「ごゆっくり」と箕浦さんは離れて行った。
 通されたのは個室だった。
 綺麗な夜景の見えるガラス張りの席は息を飲む美しさだった。

 何もかもが別世界で目眩がしそうだ。

「あの、つかぬことをお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「なんだい?」

 私の向かいに座る彼はキャンドルの揺らめく光に照らされて妖艶に微笑んだように感じた。

 彼の雰囲気に飲み込まれないように至って普通に質問を口にした。

「ジンって言うのは……。」

 あぁ。というような顔をした倉林支社長が思っていたのと同じような正解をくれた。

「くらばやしたかひと、なんて舌を噛みそうだ。」

 想像していたのと似ているけど!
 そんな理由だなんて!

「せっかくご両親がつけてくれた名前を粗末にしちゃダメです。」

 つい説教じみた言葉を口にするとハハッと軽く笑われた。

「そうか。
 崇仁って呼ぶ奴なんて両親くらいかもね。
 弟でさえジン兄だ。」

 弟がいるんだ。

 私はなりふり構わずに言ってのけた。

「弟を紹介してください。」

「フッ。俺がダメなら弟か。
 見境いないんだね。」

 俺がダメならって振ったという自覚はちゃんとあるんだなぁと意外な感じがした。

< 98 / 214 >

この作品をシェア

pagetop