御曹司は眠り姫に愛を囁く
プロローグ
彼との恋は最初から、自分が傷つく恋だった。

頭では理解していたはずだけど、心とカラダが彼の手管に落ちてしまった。

私は二人から逃げるように全速力で駆けて、一人になれる場所をバックヤードの中で探す。


今でも、鮮明に残る彼と彼女のキスシーンと甘い囁き。

私は目を瞑り、その残像を脳裏から削除しようと首を振った。


ドンと私は何かにぶち当たった。

後ろに倒れ込んでしまい、床にお尻をぶつけてしまう。


恋人の浮気現場を目撃した上に、何とも無様な有様。


「大丈夫か?貴崎さん」

私は頭上から優しいテノール声を浴びて、目の前には骨ばった長い指と大きな手が差し伸べられる。
顔を見上げるとそこには心配そうな表情の端正な顔があった。

「あ・・・椎名副社長!!?」

私が衝突したのは壁ではなく、椎名副社長だった。


「申し訳ありません・・・」


私は彼の差し伸べられた手を掴まず、自力で立ち上がる。


彼は私の恋人・椎名稜(シイナリョウ)さんの兄・椎名瑛(シイナエイ)副社長。

私の名前は貴崎凛音(キサキリンネ)二十三歳・・・

大手総合家具メーカー『シーナ』の横浜ショールームで働いて2年目。


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