御曹司は眠り姫に愛を囁く
そして、父は更に俺を絶望の淵に追い詰めた。

「瑛お前には新規事業で業務提携する会社の令嬢と見合いし、結婚して貰う。それまでに女性関係は清算しておいてくれ」
「父さんはこの俺に政略結婚を勧めるのか?」
「・・・先方は椎名家の名前が欲しいらしい。亡くなられたお爺様には申し訳ないが、『シーナ』も椎名家もおしまいかもな」
「『シーナ』と椎名家をおしまいにしたのは父さん達だろ?」

俺は父の言葉に失望し、すべてを忘れる為に夜の街で酒を煽り、泥酔した後の記憶は飛んでいた。

遮光カーテンの僅かな隙間に射す淡い光で目を開ける。

俺の眠る布団の上には寄り添うように貴崎さんが横たわっていた。

「貴、貴崎さん??」

俺の声でピクピクと瞼を動かし、ゆっくりと円らな瞳を開き、俺を見る。

「し、椎名さん?」

彼女は過剰に反応して、慌てて上体を起こした。

「ここはどこ?」

「あ・・・椎名さんの部屋ですよ」

「どうして君が俺の部屋で寝てるの?」

「それは・・・」

「し、支社長!!?」

部屋に瞳をウルウルさせた室雨が入って来て、「熱下がったんですね…」と安堵した声で言うとギュッと俺に抱きついた。



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