御曹司は眠り姫に愛を囁く
彼女の作ったお粥を完食し、室雨が用意した風邪薬とエナジードリンクを飲み、出社の準備。

俺は彼女の部屋の前で出てくるのを待つ。

「遅くなりまして、すいません。椎名さん」

「別にいいよ。室雨は先に駐車場に下りた。俺たちも急ごう」

「はい」

俺と貴崎さんは中央のエレベーターホールに向かいながら歩いた。

「本当に大丈夫ですか?椎名さん」


「大丈夫だ」

アメリカから帰国した俺を本社に戻さず、東京支社の支社長に就かせたのは不正がバレないようする為の父の時間稼ぎの人事だった。


兄貴も多分知っていて黙認している。

このまま、俺も黙っていれば、同じ穴の貉になってしまう。

周囲に与える波紋、失うモノの大きさを考えれば、簡単に口が開けない。

罪だと思いながらも、俺は一族の悪事に加担せざる負えない状況だ。
そして、俺は・・・

「椎名さん、来ましたよ」

俺がボーッと考え込んでいると目の前のエレベーターが扉を開き、待っていた。

「すまない。ボーッとしてた・・・」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫だ」






< 117 / 171 >

この作品をシェア

pagetop