御曹司は眠り姫に愛を囁く
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仕事にも手がつかず、言葉に尽くせぬ沢山の心の重荷を背負い、室雨の心配を押し切って、夜の街に一人で繰り出す。

黒に塗りつぶされてしまった絶望に苛まれた心。

『シーナ』と『椎名家』を守りたい父のキモチが理解できないワケでもなく。

曲がったコトを嫌い、責任感の強い俺の性格を知って、父達は俺を当主に仕立てたんだと思う。


あてもなく入った隠れ家的なカウンターバー。

俺はカウンターの椅子に腰を下ろし、一人でバーボンを飲んで、今夜も酒ですべてを忘れていた。

「貴方、一人?」


キラキラと輝くネイルの長い爪の持つ女性が隣に座って、声を掛けて来た。

酒飲んで、酔っても、酔いから醒めれば、また現実に引き戻され、絶望的な感情を抱く。

「一緒に飲みましょ」

「いいけど・・・」

どんなに貴崎さんのコトを想っても、俺はいずれ、誰かのモノになる。

父は女性関係を清算しとけと言ったが、俺は兄貴や稜のように女性関係は派手ではなかった。


「結婚する前に女と遊ぶのもいいかもな・・・」

「貴方、結婚するの?」

「父が政略結婚を勧めている・・・」

俺は名も知らない女に自分の素性を語り、女の持っていたグラスにグラスをあてた。
そして、俺達は台風の接近で強い風の吹くネオンの光る街に消えた。



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