御曹司は眠り姫に愛を囁く
愛のない夜
「お邪魔します」

彼はクスッと笑い、私をリビングに案内するとソファに右手で持っていたビジネスバックを置く。
その荷物を置く音にすら、カラダが緊張で反応してしまい、ビクッと肩が震えた。


「喉、渇いてないか?」
彼はそんな私に気づいていないようで安堵した。

「少しだけ渇いてします」

「ミネラルウォーターか缶ビールぐらいしかないけどどっちがいい?」

「ミネラルウォーターで」

「ソファ座ったら?」

椎名さんは棒のように立ち尽くす私に優しく声を掛けた。

「あ、はい・・・」
私は彼が置いたビジネスバックの隣に浅く腰を下ろした。


対面式のキッチン。
カウンターの向こうに広がる彼のキッチンはとてもキレイて、使われた形跡はなかった。

彼はペットボトルに入ったミネラルウォーターをグラスに注いで、私に持って来てくれた。

「ありがとうございます。頂きます」

私は渇いた喉を潤そうとグラスの水を飲む。

「今夜は俺のベットでいい?」

「え、あ・・・」

私はその言葉に慌て、グラスを落としそうになった。

「今なら、まだ引き戻せるよ。貴崎さん」

彼はビジネスバックを足許に下ろして、隣に深く腰を下ろした。

「その優しさは捨てて下さい。どうせ貴方は他の人と政略結婚するんでしょ?」

「そうだったね。君の他の人と結婚するんだっけ?」

私がテーブルにグラスを置くと、彼の手が肩に乗った。

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