御曹司は眠り姫に愛を囁く
「陸翔のキモチを傷つけるコトもなかったかもしれない」

「それは私だって同じです。私も須藤さんには申し訳ないと思っています」

「君を想って想うばかりに、俺は随分と遠回りしてしまった。そして、今が在る。
眠る君にしか本当のキモチを伝えられなかった。でも、まさか君が起きていたなんて・・・」

「夢でもいいとさえ思いました。でも、夢ではないんですね」

「互いに想い合っていても、現実には結ばれない。なら、夢のままでいい」

夢なら、その切ない想いからは目覚めれば、解放される。
現実なら、その想いは永遠に続く。

「君を抱けないと言ったけど…あれは嘘だ。俺は君を抱き締めたくて仕方がない」

「私も貴方に抱かれたいです」

「凛音」

甘く鼓膜に染み渡る彼のテノールの声音。

「椎名さん・・・」

「椎名さんじゃなく、今夜だけは瑛と呼んで。凛音」

彼は腰を上げて、私の真横に座り直す。
密着する腕。
肩を抱き、恋人のように振舞う。

「瑛さん・・・」

照れ臭く名前を呼ぶ私に向かって満足げな表情を浮かべ、瑛さんは頬にキスを落とす。
私達は結ばれないかもしれない。
でも、今夜だけは恋人・・・


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