御曹司は眠り姫に愛を囁く
瑛さんは朝食を用意した私に感謝のキモチを込めて手を合わせ、「いただきます」と言った。
私は「どういたしまして」とはみかみながら答える。
朝を迎え、別れの時が近づいているが、私達は夢から覚めない振りをする。
私の目の前で、瑛さんがコーヒーを啜り、フレンチトーストを口に運ぶ。
「美味しいよ。凛音」
「瑛さんのお口に合い、安心しました」
私は穏やかな微笑を添えて、返した。
「このまま別れちゃうのは惜しいね・・・」
「瑛さん。それは言わない約束ですよ」
「一層、全てを捨てて、一緒に駆け落ちしちゃおうか?」
私よりも彼の方が別れを惜しんでいた。
「責任感の強い貴方には全てを捨てるコトは出来ないと思います」
「良く分かってるね。
そうだよ。俺には出来ない・・・俺達の仲は朝までの話だ。もう朝だ。とっくに別れているはずだ。
なのに、別れを惜しんで、こうして朝食を食べている」
瑛さんも相槌を打ち、切なさを宿した瞳を閉じて、別れを噛み締めた。