御曹司は眠り姫に愛を囁く
あれから互いにすれ違って、1ヵ月後・・・

日曜日の昼下がり、インターホンが鳴った。
私はモニター越しに応対し、瑛さんと室雨さんの姿を確かめ、ドアを開けた。

「久しぶり。貴崎さん」

「今日はどうしましたか?椎名さん」

「俺、今日引っ越すんだ。色々と貴崎にはお世話になったから、お別れの挨拶をしようと思って」
先週、瑛さん所有のマンションのリフォームが完成し、引き渡しも済ませていた。
「あのマンションに住むんですね」

「まあね」

「支社長、俺は先に行ってますね」

「分かった」
室雨さんは私達に気を遣い、階下に下りて行った。

「お見合い相手とはその後会ったの?」

「いえ・・・まだです。来週の日曜日会います」

「そう…どんな人?優しそうな人?」

「それは・・・椎名さんこそ」

私は彼に訊き返す。

「どんな人だろうね・・・分からない」

「私も相手の写真見ていないんです。当日のお楽しみに取っておこうと思って」

「当日のお楽しみって・・・一生連れ添う相手なのに・・・」

「椎名さんだって・・・お相手のコト・・・」

「相手の写真を見た所で、お見合いが無くなるワケじゃないからね」

寂しげに洩らす彼に胸が詰まる。
彼はあの部屋でお見合い相手と暮らす。
彼なら、良き夫、良き父親として、温かいい家庭を築いていける。

「じゃ元気でな・・・貴崎さん」

「椎名さんも・・・」

私達は笑顔で別れを告げた。

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