御曹司は眠り姫に愛を囁く
訊けば、私も知っている大手のIT企業『グローバルカンパニー』に勤めていた。


「君は『浅見設計』に勤めているんだ」

目の前に座る黒縁の眼鏡を掛けた男性が私に話し掛ける。

誰しも『ASAMI』と言えば・・・大手の『浅見設計』を連想する。

この場の限りの相手だし、詳しく説明するのが面倒だったので、「まぁ」と軽く流した。


「浅見設計で何してるの?」

「インテリアコーディネーターです」

「へぇー」
彼は感嘆した。

正確にはインテリアコーディネーター見習い兼アシスタント。

嘘に嘘を重ねて、少しだけ罪悪感を感じながらも、尊敬の目で見られ、少しだけ有頂天になった。


運ばれてくる来る料理は地中海料理フルコース。
値段は明日香に訊いていなかったけど、予想の値段は7000円。

料理の味はグルメサイトのレビュー通りの極上の味で、元は取れるかな?
シェフが突然、個室に入って来て、メインディッシュのローストされた肉を目の前で切り分けるカービングのパーフォーマンスには驚いた。


「君、おとなしそうに見えるけど・・・凄く面白い」

目の前の眼鏡の彼は、他のメンバーに比べてオーバーな私のリアクションに笑う。

「・・・お手洗いに行って来ます」

彼の笑いで、急激に恥ずかしさが押し寄せて、思わず席を立ってしまった。

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