御曹司は眠り姫に愛を囁く
イベントスペースの9階に到着すると私は先に副社長を通して、エレベーターを降りる。

「ありがとう。貴崎さん」

「いえ」

「君にやって貰いたいのは・・・」

副社長は丁寧な口調で礼を言うと、私を案内する。
大正時代…当時、港町として栄えた横浜。
舶来の家具や骨董などを輸入し、販売を始めたのが『シーナ』の原点。
元々、華族で皇族とも所縁のあった椎名家。

その影響で『シーナ』の家具は創業当時からブランド化に成功し、戦後は高度経済成長期と共に、自社製品として国産家具の生産、販売にも着手して、大手の総合家具メーカーとして成長した。


海外でも、『シーナ』の家具の人気は高い。

副社長が視察に来たイベントとは、会員向けの今年度の新作家具のセレクションイベント。


9階には新作家具が既に搬入され、レイアウト通り、素敵なインテリアや雑貨で装飾されていた。

イベント担当者の企画室長の灰崎課長が副社長の姿を見て、そそくさに歩み寄って来た。

「ご苦労様。灰崎課長。レイアウトを見せてくれ」

副社長は灰崎課長と話を始め、課長の持っていたレイアウトをじっくりと見始める。

「お話し中、申し訳ありません。副社長。私は・・・」

「え、あ・・・すまない。貴崎さんは俺の隣に付き添ってくれればいい…」


秘書でもない私がどうして副社長の隣に・・・

「では、副社長…案内致します」

「ついておいで、貴崎さん」

「はい」

断るコトも出来ず、副社長の言われるままに隣について回った。





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