御曹司は眠り姫に愛を囁く
私はリビングのソファに支社長を座らせて、キッチンに飛び込んで、コーヒーの準備をする。

「このスタンド・・・懐かしいね・・・」

「あ・・・」

初めて見る社長の私服姿にドキドキしていた。

ベージュのチノパンに黒のポロシャツとラフな装い。

V字に開いた首許から覗くキラリと光るシルバーのアクセサリーもカッコいい。

「どうぞ。支社長」
と私はコーヒーメーカーで作り、昨日冷蔵庫で冷やしたコーヒーをグラスに入れて支社長に出した。


「・・・君が俺のコト、支社長って呼ぶのおかしくない?『シーナ』は退職したんだし、普通に呼んでよ。貴崎さん」


「どう呼べば、いいですか?」


「椎名さん・・・」

支社長も椎名さんなんだけど・・・椎名さんと呼ぶと稜さんを思い出す。

「嫌?」

「稜さんのコト、思い出して・・・」

「じゃ瑛さんでいいよ・・・」

「え、あ・・・それは・・・」

それじゃまるで・・・恋人みたいで・・・


「陸翔の前だと…変な誤解されるか・・・」

「椎名さんとお呼びします・・・」

「稜のコト、思い出さない?」
少し、思い出すけど・・・目の前に居る椎名さんは椎名瑛さんで・・・稜さんじゃない。

「大丈夫です。椎名さん」

「何?貴崎さん」

「コーヒー飲んでください。私、支度の途中なので、奥の部屋に行きます」

「うん」
椎名さんは手を振って、私を見送ってくれた。

私は廊下に出るなり、ダッシュで奥の寝室に急ぎ、メイクをした。
彼は私がすっぴんだと気づいているかもしれないと思うとなんだか顔が自然と熱くなった。



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