御曹司は眠り姫に愛を囁く
「兄貴」

私達の前に休憩を終えて、就業に戻った稜さんが近づいてきた。

「会社では兄貴と呼ぶなと言ってるだろ?椎名稜」

「・・・分かってるけど、つい呼んじゃうんだよな・・・」


稜さんは反省の色を見せず、いつもの軽い口調で平然と返す。

「それよりもどうして、貴崎が付き添っているんだ?」
稜さんは毛先を遊ばせた髪先を弄りながら、神妙な顔で副社長を見つめる。

「彼女はセンスがいい・・・展示家具のインテリアコーディネートの意見を訊きたくてな・・・」


「・・・それなら、インテリアコーディネイトの資格を持つ相葉が適役かと思うけど」

「相葉さんか・・・それもそうだが。1階のカウンターに相葉さんの姿はなかった・・・」

「彼女は休憩中だからね・・・」


――――相葉さん

彼女が稜さんの浮気相手。

彼女は私よりも5歳年上の28歳、3ヵ月前にインテリアコーディネーターとして中途採用された。
以前は中堅のデザイン会社に務め、その傍らでインテリアコーディネイトの資格を習得した努力家。
私は彼女を尊敬し、仲も良かった。

稜さんの浮気相手が彼女だと思うと、それが余計にショックで。

私と彼女の仲に水を差す稜さんが許せなかった。




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