御曹司は眠り姫に愛を囁く
二人掛けのダイニングテーブルに向かい合わせに座り、彼女の作った親子丼と豆腐の味噌汁を頂く。


「美味い」

「そう言って貰えると嬉しいです。椎名さん」

「陸翔には俺が隣の部屋に引っ越したって、言った?」

「いえ…まだ言ってません」

それなら、チャンスと思い、彼女に口止めを頼んだ。

「俺も言わないから…君も言わないで。貴崎さん」

「どうしてですか?」

「それは・・・その・・・陸翔のヤツ、俺と君の仲がいいの・・・嫉妬してると言うか・・・俺にしてみれば、誤解なんだけど」

「陸翔さんが嫉妬?
嫉妬しても、椎名さんには奥さんが居るでしょ?」

「奥さん?あ・・・」

そうだった。俺は彼女の前では既婚者なんだ。

「あ・・・そうだったね・・・」

「奥さんの具合は大丈夫なんですか?赤ちゃんは順調なんですか?3週間も海外出張に行っていたワケですし」

「大丈夫だよ。子供は順調」

兄貴から貰ったSNSのメッセージ通り伝えた。


「それなら、いいんですが・・・」

「人の心配よりも自分の心配しろよ。貴崎さん」


「えっ?」

驚く貴崎さんをよそに俺は鶏肉を箸で摘まみ口に運ぶ。
甘辛い卵で閉じられた鶏肉はプリッとして歯ごたえがあった。

「いい鶏肉、使ってる」

「そうですか?その鶏肉は胸肉ですよ」

胸肉?俺の中では胸肉は炒めると食べた時パサパサしたイメージしかない。

「プリプリだぞ」

「プリプリにする方法があるんですよ」

貴崎さんは自慢げに語った。



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