ケモノ系ケモノ型男子。
こーくんときーちゃんはほぼ同着。
観客は一斉に大きなモニターを確認する。
先程走った選手の記録が出てきた。
「…………う…そ……」
1位 獅子王キラ
2位 内山 幸太郎
3位 梶村 隼人
タイムを見ると1位と2位の差はわずか0.4秒差だった。
「…そんな……こーくん…」
驚きのあまり頭が真っ白になる。
つまりもう……こーくんは陸上ができないってことだよね……。
そんな……
やだよ。
せっかくあんなに早く走ったのに…。
「どこ行くですか明香先輩!」
「きーちゃんの所!こんな約束なかっことにしてくる!」
「おい白井!」
薫くんと前野先輩を無視して私は下へ降りていった。
会場の入口付近に3人が見えた。
もしかしてもう辞める話をしてるんじゃ…!?
「待って!!」
私はきーちゃんの腕を掴んで強く握る。
「明香っ」
「お願いきーちゃん、こーくんを辞めさせないで!こーくんから陸上を奪わないで!2人はこの大会のために必死で一生懸命頑張ったの。………………お願い」
「明香…」
「白井さん…」
私の後ろには梶村くんとこーくんがいる。
こんな惨めな姿見せたくないけど…こればっかり耐えられない。
ワガママだって分かってる……
でも2人の努力を無駄にしたくない!
「いいぜ。なかったことにしてやっても」
「ほ、本当!?」
予想外の言葉に私はきーちゃんの顔を近づける。
「……っ!」
どうやら嘘をついてなさそうだ。
若干顔が赤くなってたけど関係ないよね。
「…コホンッ……ただし条件がある」
「な、なに?」
「明後日の月曜日、一日俺によこせ」
明後日の月曜日って…確か祝日で部活は休み……。
「「却下!!」」
「わぁっ!?どうしたの二人とも!」
さっきまで大人しかった後ろの2人が急に大声を出してきた。
「お前みたいなケダモノに白井さんを渡すわけないだろー!」
「お前に明香を渡すぐらいなら俺が陸上を辞め…」
「それは私が許さないよ!!」
さっきまでの険悪な雰囲気が嘘かのように私達はうるさく言い争った。
周りにいる他校の選手がザワつく。
「おいおい負け犬が鳴くなよ。一応勝者は俺だぜ?それにせっかく明香がお前のためにしてやってる事を無駄にする気か?幸太郎」
「……だからってなぁ…」
「こーくん!」
「〜〜〜〜っ!」
こーくんが拳を握りしめてる。
どうやら必死に我慢しいているようだ。
「だめだだめだ!なんなら俺が一日獅子王にあげても…」
「オメーみたいな犬っころだれがいるか!!」
「なっなにー!!!」
だ、だめだ……。これじゃ埒が明かない。
「何してんだお前ら!もうすぐ表彰式だぞ!さっさと散れ!」
「ま、前野先輩…!」
前野先輩の言葉で一旦この話は保留となった。
梶村くんとこーくんはしぶしぶ観客席に戻っていく。
私も戻ろうとしたら後ろから肩を掴まれた。
振り向くときーちゃんがケータイを持っていた。
「な、なに?」
きーちゃんがケータイを出してきた。
「連絡先よこせ。話は後で電話する」
「分かった…」
私もケータイを出して連絡先を交換した。
そして表彰式が始まり、それぞれの選手がそれぞれの表彰台に登る。
表彰式が終わるときーちゃんは当たり前のように記者にインタビューをされていた。
「前野先輩も1位とったのに……」
「ははっ。いいよ俺は」
梶村くんとこーくんも少しだけインタビューされていた。
『陸上界の白王子黒王子参上!』って感じで載ったりするのかな。
大会も終わり、
私達森ノ宮はバスに乗る。
バスに乗っている最中ふと思い出した。
交換した瞬間…見間違いかもしれないけど、
きーちゃんがケータイ画面を見て嬉しそうな顔をしていた気がする。
……きっと見間違いだよね。
とりあえずこーくんが陸上をやめなくてよかった。
私は安心してぐっすり眠ってしまった。
後に前野先輩が私の横で座ったことも知らずに。