政略結婚!?箱入り令嬢は俺様社長に愛でられています

 私は着ていたモッズコートを脱いで、彼に渡した。ありがとうと言いたかったのに、声に出せなかった。なにか言葉にしたら涙が落ちそうで、私はただ唇をかみしめて、無言のまま彼を見上げた。

 モッズコートを羽織った彼は、なにも口にできないでいる私に微笑んでくれた。まるですべてをわかっているみたいな、包み込むような瞳で。

 指が長くて節の目立つ、女の子のそれとはあきらかに違う大きな手が、ゆっくり私の左手を取る。

「Goodnight, my Princess.」

 ――おやすみ、僕のお姫様。

 手首に、しゃらりとゴールドの鎖のようなものを巻きつけられた。

 金具を留めると、彼はやさしく私の手を引き寄せ、甲に唇をつける。

 まるで本当の王子さまみたいに――。

< 117 / 343 >

この作品をシェア

pagetop