政略結婚!?箱入り令嬢は俺様社長に愛でられています

 赤い壁紙が目を引く雰囲気たっぷりのその店は、すべての席が埋まっていた。

 フランスのリヨンに本店がある星付きのフレンチレストランは、金曜の夜ということを差し引いても混み合っている。

 通常なら、当日の予約は受け付けていないはずだけれど、それこそ、社長の『人脈』によるものなのかもしれない。

 いつもより口数の少ない社長は、うつくしい姿勢を保ったまま、まるで指揮棒を振るかのような優雅な手つきで料理を口に運んでいた。私はトリュフの風味がアクセントになっているフォアグラにナイフを通しながら、彼の言葉を思い出す。

『これを最後にするから』

 濃厚なうまみと香りを咀嚼するように、『最後』の意味するところを考える。

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