【中完】彼女なんて辞めてやる。
浅岡 樹は酷く、動揺した顔をしていた。どうやら、私の気持ちには気が付かなかったらしい。

逸らした目は酷く、酷く。ゆらゆら、ゆらゆらと揺れていて。そう言えば私は樹の瞳が好きだったなぁと場違いにもそんなことを思い出した。

透明感のある瞳も、低い声も、柔らかそうな髪も。クシャッと目を細めて笑う温かい笑顔も。

本当に本当に、大好きだった。

ゆらゆら揺れていた瞳が、何か真剣な光を帯びて私にゆっくりと向けられる。

「俺、不安だったんだ。」

『……不安?』

付き合っていた頃は、毎日一緒に帰っていた。デートだって何回か行ったし、キスだってした。

……さすがにそれ以上はしてないけれど。

そして、好きだということも伝えてきたはずだった。

「雪乃と仲がいい、……男。」

『日向?』

「ああ。あいつと雪乃が笑っているの見て。俺じゃ幸せにしてやれねぇのかな?って。

俺といるよりもそいつと一緒にいた方が楽しいんじゃねぇのかなって不安だったんだ。」
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