君の隣は。


朝ご飯を食べ終えて、朝風呂を済ませた頃にはイチさんは片付けを終わらせていた。

私は無言でドライヤーを彼に押しつけた。
彼は苦笑いをしながらも、「仕方ないな~」と言いながら受け取る。

そこからはお互いに無言になった。
ただドライヤーの音がお互いの間で響くだけ。

彼が私に触れる唯一の時間だ。
いつも、いつもこの10分程度の時間が私の好きな時間...の1つだ。

そんなことを考えていると、ドライヤーが冷風に変わったことに気付く。

(ああ…終わっちゃう)

「はい、乾いたよ」

「ん、ありがとう」

私はすぐに立ち上がり、ドライヤーを預り元の場所に戻す。
その足で部屋へ向かい、クローゼットを開けて部屋着から着替える。

そのとき姿見に映る自分を見る。

(顔に出てるぞ、この馬鹿野郎…)

仕事の要領と同じように笑顔を作る。
同時に私自身に暗示をかけるのだ。

私のこの想いが悟られないように。

再び姿見を見れば「いつも通りの」私がいる。


準備を整えてダイニングへ向かうと、彼は電話をしていた。
近くまで寄り、ジェスチャーで相手が誰かを尋ねる。
電話相手はある程度、予測はついているけど…。

彼はすぐに電話を切り、私に「メガネさん、下に着いてるって」と伝える。
予想通りの人からの電話だった。

私はそれに頷いて、荷物を取りに行く。


朝の時間は終わっちゃった。


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