おはようからおやすみを笑顔で。
「えっと、私は……」

「斉野さん、彼女いませんよねっ? ってことは斉野さんの友達? ねーねー、俺とメッセアプリのID交換しない⁉︎」

「え、えっ⁉︎」


突然グイグイと迫られ、戸惑ってしまう。
たった今まで見知らぬ男性をナンパをしようとしていた私がこんなことを思うのもおかしいけれど、こういう軽そうな男性は少し苦手だ。対応の仕方もわからない。


すると、目付きが悪い方の男性が口を開く。


「おい、白井(しらい)。警察官がナンパなんてみっともない真似するんじゃねぇ」


……ん?



「警、察?」


ゆっくりとそう口にすると、可愛らしい方の男性がにっこりと笑う。


「そうだよーっ! 安定度抜群の公務員! どう? どう? IDの交換する気になったー?」


警察。今度は心の中で復唱する。


同時に頭に浮かぶのは、私のお金を盗んだあの彼の姿。

私は彼に捕まってほしくない。つまり、この場で警察となんかかかわりたくない!


「ヤバい、逃げなきゃ!」

「はっ? お前、逃げるって何だ」

「さよならっ!」

「おい! 待てって!」


目付きの悪い方の男性の低い声が私を呼び止めようとするけれど、構わずに逃げ去った。


しばらく走ったところで路地裏に身体を滑り込ませ、あの男性が追いかけてこないことをそうっと確認してから、呼吸を落ち着かせる。


はー、逃げてこられて良かった。私、うっかり変なこと言ってないよね? 大丈夫、何にも不審に思われていないはず!

と、自分自身に満足しながら私は自宅までの帰路につく。
姉に会わせる彼氏の件は、家でじっくり考えよう、と思った。
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