おはようからおやすみを笑顔で。
話したいことって何だ。私にはこんな見た目の怖い警察官と話すことなんて何もない。

戸惑いながら彼を見つめると、彼も正面に向けていた視線をちらっと私に向ける。そして。


「……覚えてないか? 俺、お前の同級生だったんだけど」



……は?


同級生?
いや、私にこんな目付きの鋭い知り合いはいないはず……。


……いや。そう言えば一人だけいたような気がする。この怖い顔の知り合いが、たった一人だけ。


その時、彼が昨日、本屋の前で同僚らしき男性に『斉野さん』と呼ばれていたことを思い出す。



「あっ、斉野くん⁉︎ 斉野 祐(ゆう)くん⁉︎」

「運転中にでかい声を出すな」

「あっ、ご、ごめんなさい!」

「まあ、でも。懐かしいよな。本当に……」


そう言って、斉野君はどこか懐かしそうな顔をするけれど……


ちょっと待って?
何か、綺麗な思い出に浸るみたいな空気になってるけどさ?



私達の間に、そんな〝綺麗〟な思い出なんかないからね?
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