おはようからおやすみを笑顔で。
騙されたのは私だよね……という発言はグッと飲み込み、彼の言葉の続きを聞くけれど、


「俺、沙耶の他にもう一人付き合ってた女がいたんだけどさ、俺の子供を妊娠したってそいつから言われたんだ。でも、妊娠が旦那にバレたら俺の社会的地位が危うくなるって脅されて、中絶費とか手切れ金とか諸々で五十万要求されてさ。でも妊娠はあいつの嘘で、そもそもあいつに旦那なんかいなかったんだよ! 俺は詐欺に遭ったんだよ! 酷くないか⁉︎」


……それはつまり。彼は私の知らないところで二股をかけていて、その人との関係を清算するために私の口座から五十万円を盗んだってこと?
酷くないかと聞かれても……じゃああなたが私にしたことはどうなんだとツッコみたい。



「でもそれがあったからこそ、俺にはやっぱり沙耶だけだなって思えたんだ!」

「……ちなみに聞くけど、私から盗っていった五十万円は?」

「盗ったなんて言うなよ。俺たち恋人同士じゃん? 困った時はお互い様だろ? 飯でも奢ってやるからそれでチャラにしてくれよ」


恋人同士だろ、って……。
何度電話しても出てくれなかったじゃない。お金を持っていったまま行方をくらまそうとしたじゃない。


だけど……


「好きだよ、沙耶」


ダメ女の典型だという自覚はあるけれど、愛されていると感じられるこの言葉に私はとても弱くて、心がグラリと揺れてしまう。


これからも、私のことを好きだと言ってくれるなら。私の側にいてくれるなら。

それなら、彼を許してもいいのかな……。


そう思った、その時だった。



「ふざけるなよ」


突然背後から聞こえたその声にバッと振り向く。
元々鋭い目付きを更に細め、獲物に襲い掛かる寸前の虎みたいな表情をした斉野くんがそこにいた。


「さ、斉野くん。来ないでって言ったのに」
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