おはようからおやすみを笑顔で。
するとリョウくんは、

「なん……だよ、それ……」

と言いながらわなわなと小刻みに身体を震わせる。

そして、勢いよく右手をこちらへと伸ばし、私の髪を掴んだ。


「きゃっ!」

「調子に乗るなよ! お前は俺の言うことに従ってればいいんだ!」

強い力で引っ張られ、身体がよろける。痛さと怖さで涙が出そうになる。


すると斉野くんが「おい」と口にしながら、私の髪を掴むリョウくんの手に触れる。

彼の声は、リョウくんと違って冷静で落ち着いている。

それなのに、危うさを感じて背筋がゾクッとした。


次の瞬間、斉野くんがリョウくんの身体を持ち上げ、なんと背負い投げを決めた。

ダァンッと大きな音が街中で響く。

突然のことに、私は完全に硬直してしまう。

周囲の人たちも足を止めて、なんだなんだとこちらに注目する。


警察官がこんな街中でこんな騒ぎ起こしたらまずいんじゃ……!

だけど斉野くんは動揺する様子もなく、リョウくんに対して冷静に口を開く。


「おい。お前に選択肢を三つやる」

「せ、選択肢だと……?」

「①、金を返して木本に土下座して謝る。②、木本に謝らずに俺に殴られる。③、木本に謝らずに俺にもう一度投げられる」


②と③はほぼ一緒じゃ……と思うよりも先に驚いた。
私はいつも、なにかを考える時に頭の中で〝選択肢〟を作る。そうすることで考えを整理出来る気がして。
だから斉野くんもこの場面で急に〝選択肢〟を出してきたことにびっくりした。

そう言えば、この〝選択肢〟ってーー。


「お、俺は金を返すつもりなんか……」

「②と③だな?」

「すっ、すみません! 返します、返しますから!」

私からは見えないけれど、斉野くんがよっぽど怖い顔をしていたのだろうか、リョウくんは突然情けない声をあげて、私にお金を返すことを認めてくれた。
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