おはようからおやすみを笑顔で。
「で、でも斉野くん、私にいつも意地悪してたじゃない! それで急に好きだって言われても、信じられないよ!」

「意地悪してたのはたしかに悪かったよ。でも、小中学生男子なんてそんなもんだって。好きな子ほどいじめたくなるってよく言うだろ」

「それは、まあ……」


でも、そうは言っても!
記憶から消してしまうくらいに苦手だった相手がまさか私のことを好きでいてくれていたなんて、私の小さな脳では情報処理が追いつかない! と、パンクしそうな頭を抱えていると、彼がゆっくりと言葉を続ける。


「お前にフラれたことはショックだった。でも、散々ちょっかい出して嫌な気持ちにさせてしまってたから、当然の結果だとも思った」


そう話す彼の横顔はやはり無表情。だけど当時の彼の心情を想像したらやっぱり申しわけない。


「そういえば、私に告白してくれてしばらく経った頃から、斉野くんが近隣の不良たちとつるんでるとか、ケンカじゃ負け無しだとか、そういう噂がたくさん立ってたの。それってもしかして、私が告白を断ったことが原因で荒れてた、とか?」

私がそう尋ねると、彼は「は?」とどこか驚いたような声を出す。


「そんなわけないだろ。変な心配するな」

「本当? 本当に違う?」

「違う。たしかにそういう噂があったのは知ってるが、それは俺の目付きと人相の悪さが原因で流れたデマだ。負け無しだったのはケンカじゃなくて柔道の大会。ケンカなんかしたこともねえよ」

そう、なんだと思わず息を吐く。彼の思春期を、私のせいで逸れた道に走らせてしまったのかと思った。

……まあ、さっきリョウくんを突然投げ飛ばした様子からして、ケンカっ早い性格な気がするのは否めないけれど。


でも、自分で〝目付きと人相が悪い〟と認める発言をする彼のことを、少しかわいいななんて思ってしまった。
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