おはようからおやすみを笑顔で。
斉野くんの口から『愛する』というストレートな愛の言葉が出てきたことに驚くも、私は動揺する思考の中で必死に彼への返事を考える。


彼のことは大の苦手だったけど、それは当時の彼の愛情の裏返しであり、再会した彼は私のことを助けてくれてーー


……と、順序立てながらいろんな感情を整理していこうとしたけれど。

多分、大事なのはそういうことじゃないということにも気付いた。


大事なのはきっと、今、目の前にいる彼にドキドキしてしまっているという事実。

バクバクと心臓がうるさい。
でもーーもう少しこのまま彼にときめいていたい。そんなことを感じてしまった……。


だけど。


「へ、返事はもう少し待ってもらってもいいかな……?」

斉野くんはこんなにも真っ直ぐに熱く気持ちを伝えてくれるのに、私は曖昧な返事しか出来なくて申し訳なく思う。

それでも、真剣に考えたいからこそ今はまだ返事が出来ないと思った。


「斉野くんの気持ちは凄く嬉しいの。昔された意地悪なことも、気持ちの裏返しだってわかった。真剣な気持ちも伝わってきて、正直、ドキドキしてる。……でもね、やっぱり今はまだ、失恋したばかりで次は誰と付き合うとかは考えられないんだ。リョウくんは、今思うと本当に最低な人だった。だけどね、付き合ってた頃は彼のことが大好きだったの。実はね、さっきから、涙、我慢してて……」

泣きたくないのに、情けない感情を口にしながら唇が震える。油断すると、涙が溢れてしまいそう。

すると。


俯きかけていた頭の上に、心地良い重みを感じる。


「悪かった」

斉野くんが真剣な瞳で私を見つめながら、その大きな右手の平で私の頭を撫でる。
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