おはようからおやすみを笑顔で。
「ねえ、この後はなにか予定ある? 時間が大丈夫そうなら、どこか別のお店とかで今日のお礼させてほしいんだけど」

彼のお陰で姉を安心させることが出来た。しかもたくさんフォローまでしてもらった。お礼をしたいと強く思った。


「お礼か……」

ぽつりと呟いた彼は、少しの間の後、じっと私の目を見つめる。そして。


「じゃあ、行き先は俺が決めてもいい?」

「もちろんだよ! どこ行く?」

そう即答と、彼はゆっくりと口を開き、


「お前の家」


と答えたのだった。





「せ、狭いけどごめんね」

その後、電車で数分移動して、私の住むアパートまでやって来た。

斉野くんがどういう家に住んでいるかはまったくわからないけれど、キャリア組のエリートなのだからこんなワンルームの狭い部屋には住んでいないだろう。そう思うととても恥ずかしいけれど、掃除だけは普段からしっかりしてある。


「へぇ。綺麗にしてるんだな」

きょろきょろと辺りを見回すから恥ずかしいけれど、その一言にとりあえず安堵する。


「な、なにか飲み物用意するね! コーヒーと紅茶と日本茶と、なにがいい⁉︎」

「じゃあコーヒー」

「お砂糖は?」

「ブラックで」

キッチンで飲み物を用意している間、部屋のソファに座って待っててもらうことにした。ソファと言っても立派なものではなく、ゆったりしながらテレビを観たいという目的のためだけに買った安物で、ギリギリ二人がけ出来るかどうかくらいのサイズ感。


飲み物を用意しながらも、なんだか妙に落ち着かない。
こんなに意識しなくても、リョウくんだってこの部屋に来たことはある!
斉野くんはお茶飲みに来ただけだし、こんなに緊張する方がおかしいって‼︎


……そう思うのに、心臓はなかなか落ち着かない。
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