おはようからおやすみを笑顔で。
「駄目?」

少しだけ寂しそうな顔をして、もう一度尋ねられる。

胸がドキドキして、心臓が痛いくらいだ。


「駄目、っていうか……」

〝駄目〟って答えたけれど、私は決して彼を拒否した訳ではなくて……


「こ……こんな床じゃ、駄目……」


そう伝えると、彼がプッと小さく笑うから、恥ずかしさが加速する。


「な、なんで笑うの!」

「いや、ごめん」

すると彼の右手が、包み込むように私の頬に触れてーー


「凄く可愛かったから」


そう言って、斉野くんは優しく笑った。



その後、ベッドに移動すると、彼は優しく私のことを抱いた。

彼の手が、指先が、私の身体に触れる度、彼からの愛情が直接体内に流れ込んでくるような感覚になった。



「沙耶を抱いてるなんて、夢みたいで幸せだ」


呼吸を乱しながら、だけど優しい声でそう伝えられ、私の方こそ言いようのない幸せに包まれた。

意地悪だったあの頃の斉野くんの面影なんて、今はなに一つないーーそう思えるくらいに優しい行為だったのだけれど……


翌朝、鏡を見たら首筋の目立つところに二箇所もキスマークが付いていて……


「意地悪っ!」


と、彼に怒りをぶつけたのだった。
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