おはようからおやすみを笑顔で。
白井の言っているのは、間違いなく沙耶のことだろう。

(昨日……夕方か? でも、沙耶からそんなことなにも聞いてないな。いや、白井は〝見かけた〟って言っただけだから、沙耶は気付いていないのか)

など、さらっと聞き流せばいい情報も、沙耶のこととなるとそうはいかずに真剣に考え出してしまった。


そんな斉野の様子には全く気付くことなく、白井は発言を続ける。


「あの子、昨日は男の人と一緒でした! 茶髪でちょっとタレ目の、サラリーマン風の男性!」


……は? と、斉野は思わず固まる。
もはやコーヒーのことなど頭から抜け落ちてしまっていた。
沙耶が、男と一緒だった? サラリーマン風の男性?


「あの子かわいかったから、斉野さんのお友だちなら紹介してもらおうと思ってたのになあ」

「紹介なんかする訳ないだろ。殺すぞ」

「殺す⁉︎ 俺、殺される程のこと言いました⁉︎ まあどちらにせよ、昨日一緒にいた男性、多分彼氏なんだろうなぁ。残念」

「……か、彼氏じゃなくて道を尋ねられていただけとかじゃないのか」

「そんな感じじゃなかったですよ。楽しげに笑いながら話していたし。ていうか斉野さん、今なんでちょっと噛んだんですか?」

「うるさい、殺すぞ」

「二度目⁉︎」


その後、斉野の頭の中はその件で埋め尽くされてしまった。
勿論、沙耶にだって異性の友人はいるだろう。異性の友人との交際を断ち切れだなんて、さすがにそこまで言うつもりはない。
そのため、この件に関してはすぐに忘れようとしたのだがーーでは何故、それが出来なかったかというと、


(茶髪の、タレ目……)


もしかしたらその人物が、神代である可能性があったからだ。

神代が先日の同窓会の時、沙耶に気がありそうな感じだったのを斉野は気にしていた。

神代と沙耶が、その場のノリで連絡先を交換したという話も、斉野は沙耶から聞いていた。
連絡先を交換したのなら、二人が会うのは容易だ。


沙耶のことを信頼していない訳では勿論ないのだが、万が一のことを考えると心配で仕方なかった。
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