おはようからおやすみを笑顔で。
「斉野くん?」

沙耶に名前を呼ばれて、思わずハッとする。恐らく、つい上の空になっていたのだろう。


「どうかした?」

「い、いや別に」

「そう?」

沙耶はそれ以上はなにも聞いてこなかったが、不審な自分を気にしていることに斉野は気付いていた。


いつまでもこんな空気を引きずっていても仕方がないので、斉野は意を決して、話を切り出すことにした。


「……昨日ってさ、どこか行ってた?」

なんの脈絡もなく突然そう問い掛けたため、沙耶は一瞬きょとんとした顔を向けたものの、質問にはあっさり答えてくれた。
ただし、

「特にどこも行ってないけど」

という、斉野の期待と予想とは外れたものだった。


そう答えられてしまうと、なんて続けたらいいのかわからなかった。
俺の後輩が、お前と神代が二人で会っているところを目撃してるんだぞーーなどという事情聴取のような発言は、さすがに出来ずにいた。

だが、何故隠すのか? やましいことがなければ言えばいいのにーーと、斉野はつい、不機嫌が顔に出た。


「え、なんで急に不機嫌になるの?」

「なってない」

「なってるじゃん」

そう言われても、本当のことは話せない。

幸い、沙耶は特に気にしてはいないようで「まあ、いいけどね」と軽く返してくるが、斉野からしたらそれはそれで物足りない反応でもあった。
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