おはようからおやすみを笑顔で。
斉野がそう言うと、今度は沙耶がきょんとした顔で斉野を見つめる。

そして二秒後、彼女の顔がカアァーッとわかりやすく赤く染まった。


「えっ、えっ⁉︎ 言ったことあったよね⁉︎」

「ない。一回もなかった」

「ええ⁉︎」

斉野と違い、動揺を全く隠すことの出来ない性格の沙耶は、ただひたすらわかりやすく慌て続ける。

そんな沙耶のことをーー斉野は改めてかわいいな、愛しいな、と感じながら、彼女の手をそっと取る。


「さ、斉野くん?」

「……お前の気持ちを疑っていた訳じゃないけど、俺が強引だから流されてるのかな、っていう気持ちが全くない訳でもなかった」

「な、流されてなんか……!」

「うん。だから〝好き〟って言ってもらえて、凄い嬉しい」


ーーちゅっ、と。斉野は沙耶の右手に唇を寄せた。

沙耶の顔はますます赤みを増すも、


「……自分では伝えていた気になってたんだけど、そういえば確かに言ってなかったね。斉野くんが、好き」


と、斉野に自分の気持ちを真っ直ぐに伝える。



「昔は、意地悪ばっかりで好きじゃなかったけど……」

「……それは悪かった」

「違うの、そうじゃなくて!……今の斉野くんは優しくて、気持ちを真っ直ぐに伝えてくれるから、その……凄いドキドキするというか。って、なに言ってるんだろ、私」

恥ずかしさを誤魔化すように、はははと笑ってみせる沙耶を、斉野は真剣な瞳で見つめる。
見つめられている沙耶が「斉野くん?」と少し戸惑ってしまう程に、真剣に、熱い眼差しで。

斉野くん? と沙耶がもう一度名前を呼ぶと、斉野はそこで少しだけ口元を緩める。ただし、優しい表情……とは程遠い、どちらかと言えばーー小学生時代を彷彿させるような、いやそれ以上の、意地悪な笑み。
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