名取くん、気付いてないんですか?
リサちゃんの掃除場所へ行くと、ちょうどほうきを掃除用具入れに戻しているところだった。
リサちゃんはわたしに気付くと柔らかく笑い、手を振ってくる。あっ、可愛い。癒し。リサちゃんはわたしを癒すために存在してるような感覚がした。
「みっちゃん、おまたせ~」
パタパタと音を立てて小走りしてくるリサちゃんが転ばないかどうか注意深く見て、無事この五メートルを歩ききったことに胸を撫で下ろす。
大げさだって思われるかもしれないけど、これはかなり重要な作業だったりする。リサちゃん、ちょっと目を離せばかすり傷からたんこぶまで作ってくるから……。
そこで、ある一点に目が止まる。
「……リサちゃん、その膝……」
朝、リサちゃんの足には真っ白な包帯がひとり主張していただけだった。
ところが今は膝が赤くなって、ちょこんと中心にはクマの絆創膏が出現していた。
それだけじゃない、まるで速やかなフラグ回収だ。青くたんこぶが膨らんでいたり、確実に足には小さな傷が増えている。
「あ、これ……さっき転んだりぶつけたりしちゃってね~」
へらりと笑うリサちゃん。わたしはそれに、少し呆れ混じりにため息を吐いた。
「もう……リサちゃん!」
軽く考えてるようだけど、そういうのはよくない!
これからは、リサちゃんが掃除当番のときは散歩なんてやめよう。大きな怪我はなくて安心だけど、怪我は怪我だ。ばい菌ってすごく怖いと思う。軽く考えて膿にでもなったら最悪だし。
強引にリサちゃんの腕を引いて、よろめいた体を受け止める。もう転ばないようにと、体を密着させた。
「わっ、あ、えと、ごめんね、みっちゃん」
リサちゃん、まだ笑ってられるんだ。もう、ほんと、強い子だな……。
わたしより低い位置にあるリサちゃんの色素の薄くて明るい髪色見ていると、それよりも低い黒髪が頭の片隅をちらつかせた。
「そうだ、葵ちゃん知らない? さっき会ったんだけど、どっか行っちゃって」
「……ここに、いるでござる」
………。
リサちゃんと逆方向のとなりに、今想像していた小さな黒髪。リサちゃんに対抗するように、わたしの腕に絡みついてきた。
……えっ、ちょっ、待って、え?
「葵ちゃん、ここにいたね……」
驚きすぎて、良いリアクションもできなかった……。
もうなにこれ。可愛い女の子二人に抱きつかれて(リサちゃんはわたしが掴んでるけど)まさに両手に花。
い、いけない! わたしの心は名取くんのものなのに!
「じゃ……じゃあ帰ろっか」
葵ちゃんに和久津くんのことを言いたかったけど、リサちゃんもいる上、葵ちゃんがなにも聞くなと言わんばかりに見つめてきたので言えなかった。
リサちゃんは転ばせないように、葵ちゃんは機嫌を損なわせないように。慎重に二人の重みと温もりを感じて、歩き出す。
和久津くんに告白したあの女の子……すごかった。たぶん、振られるってわかってただろうに。
いいな……わたしも……。
名取くんに、告白してみようかな——。