名取くん、気付いてないんですか?
今日も結局、なんの進展もなく一日が終わろうとしている。告白とか、いったいなんの決意だったんだろう。
ああ……でも、今日の名取くんもかっこよかった。困ってる人を見つけたらさりげなく助ける、男女分け隔てなく優しいところ。わたしが名取くんを惚れ直すには、申し分ない理由だ。
実は一部の和久津くんと相澤くんファンからはやっかまれてるんだけど、全然気付いてないんだよなー。直接何かされるってことはないみたいだけど……まあいざとなったらわたしがばちこーん! とね、やっちゃうね。
……こうやってすぐに目標が脱線するから進展しないんだろうか。
「みっちゃん、帰ろ~」
「みお殿、行くでござる!」
教室の前で、リサちゃんと葵ちゃんがわたしを呼んだ。鞄を肩にかけて、教室を出ようとすると。
前を相澤くんと和久津くんが横切り、相澤くんは王子様スマイルを、和久津くんは睨みを利かせてきた。ああ……なんという温度差。相澤くんにだけ挨拶をしておく。
そうだ、この二人がいるなら、名取くんは……。
「あっ、名取くんまた明日~」
「……ば、バイバイでござる」
リサちゃんと葵ちゃんが、名取くんに手を振っていた。つまり、名取くんはもう教室を出ているわけだ。
教室の外に目を向ければ、オシャレなリュックを背負った黒髪で背も低すぎず高すぎずの後ろ姿。正真正銘、毎日見まくった名取くんに違いない。
「ん、じゃあね」
名取くんは手を小さく挙げて微笑む。
って、え、ちょっ、待って! わ、わたしも! 不公平だと思います! わたしにもさせてくださいー! 今日も言えないとかないからー!
声をかけようと口を開くと、名取くんの方が「あ」とわたしを振り向いて、
「朝霧さんも。じゃあね」
緩く笑って、颯爽と去っていく。
それを追いかける相澤くんと和久津くん。一度をわたしを一瞥すると、二人して吹き出しながら帰っていかれた。酷いな。でも、自分がそうされる顔をしてるのは自覚している。
だって、そんな、ずるいでしょ。名取くんの笑顔に、わたしは何回こうして焦ったことか。これはまずい。早くこの気持ちを告げてしまわないと。
そうじゃないと……わたし、爆発して取り返しのつかないことをしでかしそう!
真っ赤なわたしを残して消えた名取くんは、無意識にわたしを振り回して笑う。まるで、小悪魔のようだった。
……それでも、好きだよ。どうやったってなくならないこの恋心は、名取くんに伝わったとき、どう映るんだろう。
「おーい、みお殿ー? 大丈夫でこざるかー?」
「ふふ……相変わらず、みっちゃんは可愛いなぁ~」
しばらく放心状態だったわたしを我に戻すこともしない友達二人もまた、顔を見合わせて笑っている。
このとき。このときだけわたしは、進展しなくてもいいかもしれないなんて考えていた。でも、それはやっぱり間違っていたのだと後から知ることになる。
こんななんでもない日がわたしの未来を大きく変えるなら、どんなに嬉しいことなんだろうか。