名取くん、気付いてないんですか?
「う~~~ん……」
自室でひとり、くしゃくしゃに折り目のついた折り紙と手裏剣の作り方が描かれた本を前にして、わたしは深くうなる。
なんでこう、折り紙の作り方はわかりにくいんだろう。丁寧に説明はしてくれてるし、イラストだってある。
だけど理解しづらいというか見にくいというか……なかなか上手くいかない。わたしの読解力がないんだろうな。
はぁ……今日はタイミングが合わなくて葵ちゃんには教えてもらえなかったんだよね。明日教えてもらってもいいんだけど、どうしてか今じゃないといけないって気がするんだ。それもこれも、さっきまで名取くんとの会話の内容によるもので。
『なんか、八雲さんと裕也って昔会ったことあるらしくて……』
葵ちゃんの話。名取くんは間違いなくそう言った。核心は聞かずに周りの話を伺っていくと、和久津くんから電話がかかって、切羽詰まった様子で聞かされたらしい。
名取くんはどんな内容なのか教えてくれようとしてくれたけど、わたしは聞かなかった。
……聞けなかった。葵ちゃんの口からちゃんと聞くって、決心したから。
なんだか思ったよりも深い問題らしくて、和久津くんが深く関係していて。このままじゃわたし達とも微妙な関係になってしまう。
変に関わってしまったからには、やっぱり最後まで見てしまいたい。
そこで、葵ちゃんに教えてもらおうと買っておいた、机の上の折り紙にふと目が留まって手裏剣を作ってみようと思ったわけなんだ……けどね。
家を探しまくって捨てられてなかった折り紙の作り方の本を引っ張り出しても、なんか無意味だった気がする。
気晴らしに他の題材を折っていく。奴さんとかツルとか、定番なのはできるかも。こういう昔の遊びって、ひさびさにやると楽しいよね。懐かしさに浸れるし。
今度は名取くんにおすすめされて昨日買った漫画を手に取った。折り紙愛好家の彼が一番得意とするのが、風船だからだ。
彼が初めて折ったのがそれだという設定で、巻末に作者さんが作り方を載せてくれている。あれ……ちょっと難しくなってきたな。
「ふう……」
なんかいっぱいできちゃった。捨てるのももったいないし、二、三個は机に飾っておいて……残りはリサちゃんに渡そっかなー、リサちゃんなら受け取ってくれるだろう。
さて、肝心の手裏剣はひとつもできあがってないわけだけど、そろそろ始めてみよう。風船を作れたわたしなら、お茶の子さいさいなはず!
袋の中から青い折り紙を抜き出そうとしたとき——お母さんの声で手を止めた。どうやら、夕飯の時間のようだ。がっかりだけど、また後でしよう。
葵ちゃんの気持ちと、和久津くんの本音。少しでも知れたら、いいな。
それに……一番気になるのは和久津くんが嘘を吐いたこと。葵ちゃんにはしらばっくれて、名取くんには昔会ったことを言っているわけ。わざわざ知らないなんて言う必要、あったんだろうか。
あんまり深入りされると困るよね。でもさ、知りたいなら追求してもいいんじゃないかと思うんだ。葵ちゃんも……言いたげな瞬間があるように見えるしさ。
うーん、今更だけど、どうしてわたし名取くんより二人のことを考えちゃうんだろうね。