名取くん、気付いてないんですか?


 ……今日のわたしの席は、居心地が悪いな。


 となりの相澤くんが明らかに不機嫌で、授業中も気になって仕方ない。相澤くんにも折り紙を分けようと思って持ってきたんだけど……タイミングがないね。


 朝の挨拶さえさせてくれないオーラのわけは、きっと昨日の女の子達が原因なんだろう。あんまりベタベタしてくる女子は苦手みたい。どうせ「明日も来るねー!」とかなんとか言われたんだろう。


 なんて考えていると、休み時間に例の三人組がやってきた。甲高い声で相澤くんにすり寄り、一方的に話し出す。相澤くんはつまらなそうに、適当に、聞かれたときだけ相づちを打っている。


 相澤くんの機嫌が悪いこと、気付いてないのかな……。あんなにあからさまなのに。


 今まで耳を傾けずとも聞こえていた声が小さくなり、途端相澤くんの眉に深くしわが刻まれる。ひそひそと音は聞こえてくるんだけど、言葉の意味は聞き取れないなー。


 なんだか盗み聞きのような感じになって、次の授業の準備をすることで気を紛れさせた。


 今日の相澤くんは、やっぱり変だ。



※ ※ ※



「これから、拙者の手裏剣教室を始めるでござる!」



 昼休み。笑顔で駆けてきたいつも通りの葵ちゃん。


 まるで昨日のことなんてなかったかのように折り紙教室を開始してくれる切り替えの良さに、一瞬ポカンとしてしまった。


 でもリサちゃんはノリノリで、「いえ~い!」と折り紙を机に広げている。せっかく葵ちゃんが手裏剣の作り方を教えてくれるようなので、わたしも配られた折り紙を手に取った。



「あれ、葵ちゃん、今日は購買じゃないんだ」



 コンビニの袋を腕にぶら下げる葵ちゃんを見て、わたしは首をひねる。


 葵ちゃんはピタリと体を止めて、ぎこちなく笑った。



「あ、あー、まーその……たまには購買以外もいいかなっと思って……ござる……」



 言いつつ袋から取り出したのはサンドイッチだ。それなら購買でも買えるはずだし、飲み物は学校で買ってるわけなんだけど……?


 そこまで考えて、はっと自分が過ちを犯したことに気付いた。


 そうだ……購買は、和久津くんも利用するんだよね。いつも通りに見えて、やっぱり気にしてるんだ。っていうか、わたし、すごく無神経だったような……。さ、最悪だ。


 大体今日のお昼は名取くん達とも一緒じゃない。それは、わたし達が葵ちゃんと和久津くんの空気を読み取ったからじゃん。避けてることなんて、一目瞭然なのに。


 微妙な空気になりかけて、調子を戻す言葉を探っていると。



「ご指導よろしくお願いします~!」



 リサちゃんの柔らかい空気が包み込んできた。


 刹那、ふわりと頬に優しい風が撫でた気がして、リサちゃんを見つめると、笑い返してきて。すごく心が……落ち着いた。


 岸理沙子という女の子は、ふとしたときにわたしの心に安心をくれるのだ。

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