名取くん、気付いてないんですか?
なんということでしょう。
あのしわひとつなかった二枚の折り紙。葵ちゃんの指導通り、一回一回丁寧に折り重ねました。すると、見た目は薄いのに、パンダ色の鋭利で完璧な手裏剣ができあがったのです。
自分の手裏剣を神々しく掲げて、これ以上ないくらいの笑みをこぼすわたし。葵ちゃんはドヤ顔で巾着袋にしまって、リサちゃんはうっとりと眺めながらお弁当を食べ始めている。
十分に満足した後、きちんとファイルに挟んで保管する。余韻に浸りながらゆっくり鞄へ直していると……一瞬、教室の隅で名取くん達とごはんを食べていた和久津くんと目が合った。
ピクリ、と肩が跳ねる。でも、睨まれてるはずなのに全然怖くなくて。
目が離せないでいると、おもむろに和久津くんが立ち上がった。見られて嫌だったのかもと慌てて逸らす。ああ、ほら、どうしよう。こっちに近付いてきてない?
葵ちゃんも感づいたみたい。露骨にそっぽを向いて、サンドイッチを咀嚼している。頬が大きく膨らんで、リスのようだ。
えーと、今こっちに来られるといろいろ気まずいし、困るっていうか——
「あ、裕也、俺も一瞬に行くよ」
そんな平坦な名取くんの声に、わたしは目を丸くした。葵ちゃんも空気が変わったことに、いつの間にかそっぽを向くのはやめて名取くんに釘付けになっていた。
「は、なにが……?」
首を傾ける和久津くん。
名取くんも負けじとパチパチとまばたきをする。
「ん、あれ……飲み物でも買うのかと思ったんだけど、違った?」
「……」
流れる沈黙。その中でただひとり、おそらく素だったであろう名取くんがもう一度「あれ?」と苦笑した。
なんか、助けてくれたのかもと考えたんだけど……違った、のか?
恐る恐る和久津くんに目を向けると、呆れたように息を吐いて「じゃあそういうことにしておく……」なんてつぶやいている。あれ、これって、考えでは違ったけど、結果的には名取くんは助けてくれたってことだよね。
胸をなでおろし、やっとお弁当に手をつけようとして……。
「どっちにしろ、おまえには話があるけどな、朝霧」
そう言って和久津くんから冷ややかに見つめられてしまっては、一瞬で顔が青ざめるのも無理ないと思います。
ま、またですか……また名取くんとの関係にケチつけにくるんだろうか……。そんなの、ただのクラスメート止まりだし。あわよくば友達。
それか……葵ちゃんのこと? それならわたしからも聞きたいことはあるんだけど。
また次、呼び出されるまで、不安と期待が入り混じったドキドキが脈打つのだった。