名取くん、気付いてないんですか?


 予鈴が鳴って、次の授業の準備をしなきゃと鞄から教科書を出していたとき。


 ようやく今日はじめて相澤くんと目があって、嬉々として笑いかける。なんだわたし、相澤くんが変だったの、寂しく思ってたんだ。いろいろ文句言ったりしてたけど、結局は好きなんだな。



「八雲さんのこと、ちゃんと見ておいた方がいいんじゃないかな」



 久しぶりの王子様スマイルかと思えば、そんなことを言ってくる。


 なんだか表情と言葉が合っていないような気がして、癒しだと思われていた王子様スマイルに初めて距離を感じた。



「うん、わかってる」



 相澤くんもたぶん、心配してくれてるんだな。また嬉しくなって、胸の前で拳を握りしめる。


 どこか堅かった相澤くんの顔が少し緩んだ。



「その言葉、忘れないでね」



 相澤くんも握り拳を作って、わたし達はバトル漫画の仲間と書いてライバルと読むアレのように拳をコツンと合わせた。


 でも、なんか意外だな。相澤くんもそういうこと気にするんだ。あ、いや、別に相澤くんが冷たい人だって言いたいわけじゃないんだけど。


 相澤くんって、もっとこう……心の中で留めておくような、周りを見てないようで見てる感じかと思ってた。わざわざ言わなくてもしてくれる人だよね。


 そんな小さなことが疑問になるわたしは、きっと敏感になりすぎてるんだろうな。視界を広く持っておかないと——葵ちゃんを見守っていけないのに。


※ ※ ※


 う、うらやましい……。


 わたしが和久津くんと帰らなきゃいけないのに対して、葵ちゃんとリサちゃんは相澤くんに帰りを誘われていた。それは、名取くんとも帰れることを意味していて。


 きぃー! うらやましすぎるー! なんで急にそんなこと誘うのさ相澤くん! 名取くんが断るわけないし、わたしに呪われでもしたいのか!?


 ギラギラと威圧感むき出しで相澤くんを睨むと、有無を言わさぬ微笑みを返された。わたしなんかには到底足下にも及ばないくらいの恐怖だった。


 笑ってるのに笑ってない……どうやって出してるの、その雰囲気。絶対キレたらヤバいタイプだ。


 観念して和久津くんのところへ行くと、「……大和の彼女でもないくせに、面倒くせぇな」なんて舌打ちされてしまった。


 な、なんなのー! おい、名取くんのおまけ共、わたしの扱い雑すぎないかー!? 和久津くん、今の発言、かなり傷ついたからね!?


 手を振って緩い笑みを浮かべるリサちゃんに癒されつつ、名取くん達と別れる。


 最後に名取くんへ挨拶をする。なにやら名取くんが近付いて来てくれて、目を丸くしていると



「また、メールで話そうね」



 小声で囁いてきた。


 一瞬でボッと赤くなるわたしの顔。他の人には会話は聞こえていなかったみたい。わたしの挙動不審は笑われたり睨まれたりして、隠し通すのに必死になった。


 ああもう、なにこれ、なんか秘密の関係っぽくていい! 相澤くん、名取くんに免じて許してあげるね!

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