名取くん、気付いてないんですか?
昇降口では、女の子同士の笑い声とともにパタパタと数人の足音が廊下で響いていた。
隣では和久津くんが怪訝な顔をして、足音の向かった方向を見つめている。敏感になりすぎだってば、和久津くん。あんなの、よくある光景だし。
こんな些細なことで気にするんだし、葵ちゃんを守りたいって気持ちは一緒なんだ。守り方が違うだけで。きっと、和久津くんは昔を忘れることで葵ちゃんを守ろうとしている。
「………行くか」
絞り出したような声にわたしは返事をして、一度目とは違う気持ちで和久津くんの隣に立った。
決して穏やかではない空気で、わたしは隣で歩く和久津くんを見上げる。
「あの……もし葵ちゃんの話だったら、言わないでほしいんだ。本人の口から聞きたいっていうか……」
まず初めに、釘を刺しておくことにした。本当にそうだったら和久津くんの無駄手間だったけど。でも葵ちゃんの話なら、和久津はなにも言ってこない気がするから。
和久津くんはわかってると言わんばかりに頷いて、話を切り出してきた。
「……じゃあ、俺の話なら、いいか?」
覚悟なんてとっくにできている。
葵ちゃんから直接聞く我慢だって。
それだけ彼女に近付きたくて、友達なんて一括りでは表せない存在で。人を好きになるってことは、その人が良く思ってない部分も認めて、愛さないといけない。
あの黒髪、笑顔から覗く八重歯、撫でるのにちょうど良い頭の位置。ああ、もう、全てが好き。好きな人のことはなんでも知りたくなっちゃう。
目の前の和久津くんは全てを知っている。……ちょっと、嫉妬しちゃうかな。
だけどわたしはほんの少しだけ、彼のことも好きなってしまっていたんだ。
……ああ、そうか、わかった。わたしのしたいこと。
わたしは——
「俺は——葵から、忍者なんて消してやりたいと思ってる」
二人の距離を、取り戻したいんだ。