名取くん、気付いてないんですか?


 つまりリサちゃんに会いに行くのを口実に、さりげなく名取くんともお話できる。そういう魂胆。


 今月、五月の席替えでリサちゃんがこの席を引いたときは夢だと思った。でもまあ……ほんとはわたしが横だったらもっと良かったんだけどなーとは何回も思ったけど。



「眠そうだね~、最近あったかいもんね」


「うん、そうなんだよね……」



 なんて二人の自然な会話。


 仲良さそうに話す二人を見て、つい対抗してしまったのか。


 わたしはずかずかとリサちゃんの机に行くと、顔が熱くなるのも忘れて、



「お、おおおはよう名取くん! ほ、本日はお日柄も良く……えーと、良い天気だね!」



 普段は絶対にしないと誓った、さりげなさの欠片もない声のかけ方をしてしまった。しかも意味が重複している。


 こんなんじゃ、名取くんに気があるのバレバレじゃんー! まだ気付かれるには早いのに、もうちょっと距離が近付いてからが良かった!


 うわぁ、イケメン二人組、和久津くんと相澤くんにめっちゃ見られてるー。特にクール系男子の和久津くん。これが俗に言うジト目かー……。


 名取くんはきょとんとした顔だけど、わたしの意図がわかった! と言わんばかりに窓の外を見た。そして、



「あー、だね」



 と、一言。


 お、おぅふ……。


 なんてこったい。スルースキルにたけすぎだぜ、名取くん。それとも天然さんか? もうちょっとくらい、気にしてくれてもいいんだぜ?


 なんかわたしが報われないのって、わたしの頑張りが足りないだけじゃなくて名取くんも原因にあると思います。


 そこらへん、どうなんだろうね。じゃあ、えーと、和久津くん。


 そっぽを向かれた。


 わー、つめたーい。今体感温度がマイナス二度下がったよー、たぶん。


 なぜか相澤くんはこの光景に笑いをかみ殺しながら震えていた……。


 名取くんは、わたしのことどう思ってるんだろう。


 もちろん恋愛対象じゃないのはわかってるけど、クラスメートか……あわよくば友達くらいには思ってるのかな。だって一応、二年間クラス一緒なわけだし。


 和久津くんたちと会話を再開して、わたしには見向きもしない名取くんの眠たげな横顔を盗み見る。


 だけど和久津くんにはバレていた、こちらを見てガンを跳ばしてくる。わー、こわーい。


 ていうか、わたしは名取くんへの好意を隠してるわけでもないからそろそろ気付いてくれてもいいんじゃないかな、当人さん。おーい。



「理沙子殿。すごく見てるでこざるね、みお殿」


「うん、微笑ましいよね~」



 またもや隠れ身の術で現れた葵ちゃんとリサちゃんがわたしに熱い視線を送っているのには気付かないふりをした。真面目に聞いてしまえば、きっと顔を真っ赤にしてデレデレするわたしがいるからである。


 その後も飽きることなく見つめていると、またもや和久津くんがちら見してきた。またガンを跳ばされるかと思いきや、わたしの横を捉えた和久津くんは露骨に嫌な顔をする。


 わたしの横には、葵ちゃんがいるので……。



「はっ、やっとこちらを見たでこざるね、和久津」



 葵ちゃんは不敵な笑みをを浮かべると、懐から巾着袋を取り出してきた。


 ああ、またか……。とクラス一体になって苦笑を見せる。

< 3 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop