名取くん、気付いてないんですか?


 葵ちゃんと教室に入って辺りを見回すけど、リサちゃんはまだ来ていなかった。


 すごく心配になる。リサちゃんのことだから、登校中に何かあったって言われてもなんら違和感がない。今まではなんとか運が良かっただけかもしれないのに。


 そして今日も相澤くんは、例の女子三人組によって王子スマイル隠しをされていた。となりの席に腰を下ろし、相澤くんを見つめてみる。しかし彼は俯いたままで、目が合うことはなかった。


 和久津くんは自席で、頬杖をついて外を眺めている。なんとも話しかけづらい代表的な仕草だ。


 話しかけるのが億劫になるシチュエーションな相澤くんと和久津くん。そしてまだ来ていないリサちゃん。つまり名取くんの周りには誰もいないということで、つまり、名取くんは今ひとりだということである。


 席でぽつんと。寂しそうに見えなくもない微妙な顔で、名取くんは座っていた。もちろんすかさずわたしは、彼の元へと駆け出す。



「な、名取くん!」



 顔が熱い。まだ名取くん前での赤面は直らなかった。

 

「あっ……お、おはよう、朝霧さん」


「おっ、おはよう! えーと、ひとりだね……?」


「あ、うん。こういうことってあんまりないか
ら、ちょっとわびしいね」



 名取くんはあっけらかんと言い放って、控えめに笑う。うーん、眩しい!


 でも……わ、わびしい?



「……ぜ、全然そうは見えないけど」


「そんなことないよ。……意外とね」



 ふと名取くんは目線を下げて、まつげがかかって色っぽくわたしを誘惑する。それからまたわたしを見ると、



「まぁだから、朝霧さんが来てくれて嬉しいよ」



 ———ちょっと今叫んでいい?



 いや、あの、この喜びは、内側だけじゃ納まりきれないって。え? 冷静に見える? そんなわけないじゃんかなりテンパってますけど。


 今日はわたしが名取くんの魅力についてペラペラ早口でまくしたてても怒らずに笑顔で聞いてくれるリサちゃんと相澤くんが近寄れない状況だし、和久津くんの邪魔がなくて名取くんと二人きりだしなんだこれー!


 葵ちゃんは空気読んでるよ感を出して他の子のところにいるし……。



「あ、あと……。えっと、朝霧さん」


「は、はい!」


「昨日メールできなくて……ごめんね」


「え?」



 メール? えーと、あ、ああ! わ、忘れてた……!


 昨日いろいろあったから、っていうのは、言い訳だよね。ここは、正直に……。



「だからあの、直接言うけど……今度、一緒に遊びに行かない?」


「——え!?」



 ちょっと待って急にデートのお誘い!?


 ど、どうしよう……! いや、どうするもこうするもないんだけど! 答えなんて一択しかないんだけど! まさか名取くんの方から誘ってもらえるなんて。わたし、期待してしまう!


 
「……えっと、どうかな」


「よ、よろこんでーっ!」


「ん、よかった」



 わたし……わたし、いったいどうなっちゃうの~!?

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